peng'suke

ペンスケ

クジラの島の少女

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Book Profile

Work

筆者: Witi Ihimaera (ウィティ・イヒマエラ) (原著 “The Whale Rider”;)

発行日: 2003年;角川書店

ページ数: 248

言語: マオリ

Genre

小説

Time and Place

ニュージーランド東海岸の村・ファンガラを舞台としている

執筆されたとき:1986年8月14日(最期のページに記載)

Subject Matter (内容)

登場人物:

カフ

  • 物語のヒロインの少女
  • コロのことを愛している

コロ・アピラナ

  • 一族の大首長
  • カフの曽祖父
  • 首長の後継者を探している
    • カフが女の子だと言うことに不満
    • カフのことを愛せない(最後のシーンまでは)
  • 「パカ」という愛称でカフとナニーに呼ばれている

ナニー・フラワーズ

  • コロの妻
  • どんな時でもカフを守ろうとする頼もしい曾祖母
  • 夫のコロと毎日のように離婚話になるまで口げんかしている
    • いつもコロが降参する

ポロウランギ

  • カフの父親
  • 恋人:マリア

レフア

  • カフの母親
  • カフを出産後に亡くなる
  • 偉大な先祖の名「カフ」と名づける
    • 自分の死後、夫のポロウランギを立てるため 33

ラウィリ

  • ポロウランギの弟
  • カフの叔父
  • 物語の大半は彼の目を通して語られている
  • カフのピカを埋めたときから、彼女を一生守ろうと決意; カフのことを可愛がり、愛している

 

あらすじ:

ポロウランギとレフアの間にカフという女の子が誕生する。しかし、後継者を探してたコロは不満を募らせ、その後も厄介者扱いし、彼女を愛することはできなかった。それにも限らず、カフは純粋にコロを愛し続け、いつも付きまとっていた。カフのピト(へその緒)を先祖の住むファンガラに埋め、レフアのお母さんがカフを部族の元で育てても、戻ってくるだろうと信じた。コロが後継者候補の男たちに、海からある特別な石を見つけるよう命令したが、誰もできることはなかった。しかし、カフは驚異的な水泳能力で見事見つけ、もって帰ることができた。だが、コロにはカフが見つけたことを知らせなかった。その後しばらくして、ナレーターのラウィリはオーストラリアとパプア・ニューギニアに大学の一貫として数年留学した。帰ってきたときには家族みんなが迎えてくれた。やがて、かつては人間と共存し、コミュニケーションもとれていたクジラが数匹浜辺で数人の男たちに残虐に殺され、その後に群れが浜辺に打ち上げられ、たくさんの人が協力して、海に返さそうとしたが、クジラは浜辺に戻ってき、最終的には全匹死んだ。また、クジラの群れが浜辺の群れが打ち上げられた際に、首長のコロがクジラを海に戻すことができなかったら、もうこの島の伝統を途絶えることになるといい、島の男たち全員で協力した。努力の末、不可能と思われたが、コロの「クジラが死んだら、自分も死ぬ」という言葉を聞いたカフは、コロに死んでもらいたくないために一人で怖いものなしにクジラのとこまで泳ぎ、マオリ語で歌いながらクジラに「カフ」(クジラたちの親しい先祖の名前と同じ)を伝えたところ、クジラの群れが生息する場所まで連れて行かれた。島のみんなは、カフが死んだと思い、コロとナニーは酷く悲しんだ。また、そのときナニーがコロにカフが石を見つけたのだと教えた。そこから、コロはカフを誰よりも愛おしい、大切な存在として扱うようになった。(もちろんナニーのことも愛している)

注目すべき点:

なぜコロにカフが石を見つけたことを伝えなかったのか。
カフはクジラと会話ができる。(歌を通して)

本の影響、本への社会的影響
  • ファンガラ独特の文化背景がよく描かれている
    • 男性は島を支配する存在であり、女性にはないマナ(力・権利)を持っている
    • 人情が熱い
  • Disneyの『Moana』はこの作品を基にしていると言われている
  • アメリカの学校などではよく読まれている
表現方法、本の特徴

童話のよう
マオリ語(カタカナ表記)が多く含まれている

感想

この作品を基に作られたと言われている『Moana』を観たことがあったので、似ている箇所を見つけられ、理解がしやすく、ストーリーになじめた。

 

 

Essay: 議論をして(1)

登場人物の関係性、文化との関わり、また歴史との関係性について考えた。

今回のアクティビティーで気になった、「カフが海から石を見つけたことをなぜコロに秘密にしているのか」という疑問について、「コロは、まだ心の準備ができていなんいだ」ということから、ナニーはコロのことを思って伝えなかったのだと考える。ナニーは最初から、カフは特別な能力を持ち合わせており、今回でカフが長になる存在であることを確信したのだろう。しかし、カフを孫としても認めていないコロに伝えたら、喧嘩の度を超えるとナニーは思ったのだろう。

また今回の議論ではカフの叔父、ラウィリについても理解を深めた。彼は「経験を積むべき」と思い、オーストラリアに留学した。たくさんのいとこも住んでいることから、二国の関係性が強いことが分かる。若者が良く行きそうな、しかしファンガラにはなさそうな娯楽施設がオーストラリアにある。彼も他の若者と同じように、自身の勉学的経験だけではなく、人生を楽しむためにすんなりとオーストラリアに行ったことから、ファンガラを去る際にはそれほどマオリの文化にはさほど関心がなかったと考える。しかし、昔戦争が盛んに行われていたパプア・ニューギニアでは、複数の人種が住むことにより人種差別に発展した歴史を持っていることから、ラウィリはヨーロッパ系白人による人種差別を受けた。そして改めて自分の地元、マオリのよさを理解する。このことから、ラウィリの留学は、他の場所にはないマオリ族の文化の独特性を主張、また歴史的背景を反映するのに効果的だったと感じる。また、マオリではコロによる男性だけがマナ(権力)を持っているという考えに基づいているため、パプアの人種差別と比較された、男女差別が描かれている。

今回の議論では、気になっていた疑問について話し合い、マオリとパプア・ニューギニアの歴史についても理解を深めることができた。

 

Essay: 議論をして(2)

カフのリーダーとしての素質、自然と人間の共生や伝統と近代性の比較について議論した。

初めに、カフがリーダーとして持っていた特徴、またそれらが男性的かという質問について考えた。「男になる」と言って決断力を持つことは男になることだと考えているナニーに対して、カフは女の子っぽい態度をとりながらも行動力と共に島の人々からの人望を持っており、自然を大切にするマオリ族のリーダーとして重要な伝統的なマオリ語を喋れ、またクジラと会話ができるという潜在的能力を持ち合わせている。もしカフがリーダーになったら、コロのような男女差別が減り、リーダー像が時代と共に変わっていくのだろうと考える。

次に、クジラが語り手になる程、作品では大きな役割を持っているが、現代において何の象徴をしているのかについて議論した。作品では、「クジラが死んだら、自分らも死ぬ」という考えを真剣に信じていることから「人間と自然の共生」が一つの大きなテーマとして取り上げており、陸のリーダーの人間に対照して、海のリーダー・クジラは自然を象徴しているのではないかと感じた。悪天候やクジラの打ち上げは、自然への心を失いかけている人間への挑戦であり、自然を大切にしなくてはいけないという教訓が含まれていると考える。

最後に、カフとコロの男女差別に対する態度の違いと、ラウィリが島にとどまる海外に出るかなど「伝統と近代性」というもう一つの大きなテーマに関して、変わっていく世の中で未だに受け継がれているマオリ族の伝統について議論した。タトゥーを「家紋」という意味の「モコ」と呼び、全身に先祖を表すものとしてしている。また、地面に穴を掘って自然を活用して料理、おしゃれな中心部でさえ裸足で歩いたり、舌と目を使って威嚇したり、自然に共生し、動物のような仕草もとることが分かる。

マオリ族のリーダー像が伝統と近代性が対照されているように、時代と共に変わって行き、自然と人間の共生の在り方にも変化が現れてきていることが『クジラの島の少女』に描写されている。

 

Essay: この作品において、伝統と現代的なものとはどのように表現されているか

『クジラの島の少女』では「伝統と現代」が一つの主要なテーマとして取り上げられており、描写している登場人物として主にカフ、コロ、ラウィリの三人が挙げられる。

コロはカフの祖父であり、伝統を大切にする人物と作品には描写されている。一つに、コロはマオリ族のリーダーであり、後継者を探すのに必死になっていることから、伝統を受け継いでいくということに関して情熱を持っていることが分かる。しかし、リーダーは男性でなければいけないという考えを一向に曲げようとせず、女の子のカフが後継者になれないがために、どれだけカフがコロを愛していても好きになれない態度から、かなりの男女差別を持っていると感じる。男女差別は現代では注目視され始め、社会問題になるほど解決しようとしているが、昔の時代ではよくある考えであった。これらのことから、コロはいい意味でも悪い意味でも伝統にとどまり、受け継いでいくことを重要視していることがわかる。

次に、現代を象徴している登場人物、カフは作品の最後のほうにリーダーになるだろうという描写がされている女の子である。彼女がリーダーとして備えている素質として、島の人々からの人望、熱中して物事をこなせる行動力、また自然を大切にすることで特徴的なマオリ族のリーダーとして重要なマオリ語を勉強しており、流暢に喋れ、クジラとも会話ができるという潜在能力を持ち合わせている。これらの素質は決して男性に限られた能力ではなく、男女のどちらでもリーダーになるのは可能だということを示している。自然との共生、またマオリ語という大切な伝統を受け継いでいくと同時に、男女差別という問題を変えていくことは可能であり、現代のリーダー像を変えようとしている現代的な視点を踏まえて描写されていると感じた。

最後に、カフの叔父であるラウィリは島を離れ、数年オーストラニアとパプア・ニューギニアに留学するという経験をした。コロが伝統を受け継ぐにふさわしい若者を探すのに苦労をしているように、ラウィリも留学すると決めた時点では、故郷の島への思いが強くなかったと言えるだろう。これは人々の世界中での行き来が広がったことだけではなく、例えば戦時のような愛国心は昔に比べ、現代ではかけているということが示唆されている。しかし、ラウィリは留学先で人種差別にあい、世界を知ることで故郷の伝統の恩恵に気付かされた。

これらのことから、三人の主な登場人物により、現代への社会のあり方の移り変わり、また良き伝統を残しながらも、社会を現代的に改善していくことへの可能性が、作品では描写されていると考える。