peng'suke

ペンスケ

朗読者

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Book Profile

Work

筆者: Bernhard Schlink (原著 “The Reader”;小説家・法学者)、松永 美穂(翻訳)

発行日: 1995年、(2003年日本語訳、2008年映画化)

ページ数: 247ページ + 解説ページ

言語: ドイツ語、日本語訳

Genre

小説

Time and Place

1960年ごろを舞台としている

自身の少年時代を題材にしている

Subject Matter (内容)

登場人物:

ミヒャエル・ベルク

  • 主人公
  • 物語の語り手
  • 15歳

ハンナ・シュミッツ

  • ミヒャエルよりも21歳も年上の女性
  • 1922年10月21日、ヘルマンシュタット生まれ
  • 第二次世界大戦を体験している(20代ごろ)

 

あらすじ:

ある日、ミヒャエルは学校からの帰り道で気分が悪くなり、嘔吐し建物の壁に壁にもたれたたずんでいたところ、名前も知らない女性(ハンナ)に乱暴なほどに看病してもらった。その後黄疸にかかっていると診断が下され、数ヶ月間闘病生活を送った。回復した後に、ハンナにお礼をしに彼女の家を訪ねた。その後、ミヒャエルはハンナを魅力的に感じ、次に訪問した際には愛し合った。

ある日、ハンナにせがまれ、ミヒャエルが本を朗読して聞かせることになり、朗読は二人の習慣となった。よく『戦争と平和』や『オデュッセイア』などを朗読した。そして突然ハンナは姿を消してしまう。

 

本の影響、本への社会的影響

ドイツ・アメリカでベストセラーになり、39ヶ国語に翻訳された

表現方法、本の特徴

翻訳文学ともあり、今まで読んできた作品と文体が違う。例えば、一連とした動作や同じ場面での説明が長々とされており、時間が過ぎるのが遅く感じられる。

 

Resources

https://ja.wikipedia.org/wiki/朗読者

 

Essay: 議論をして

私は日本とドイツでの戦争に対しての意識の差異、また筆者自身についての知識を深め、主人公のミヒャエルがなぜ作品中での行動をしたのか、また筆者の得意分野である法律や裁判などが文中でどのように役立っているかを学んだ。

第二次世界大戦で、日本とドイツは同盟を組み、敗戦し、同じ立場であった。戦後20年のドイツでは、ナチのせいにし、責任から逃れようとする行動をとった。しかし、1960年代になり、過去にとった行動を見直し、自分たちの責任を考える「1968年世代」という学生運動が始まった。作品中のミヒャエルは、戦争責任を大学で学んでおり、裁判にも出席したことらか、熱心に自らドイツが戦争でとった行動と向き合おうとしている態度が伺える。

ドイツには、アウシュビッツ強制収容所や、市民自らのアイデアで建てられたホロコースト記念館などには、「加害者」としての資料が残っている。それに比べ日本では広島、長崎の原爆ドームなど「被害者」として戦争を記録するものが殆どで、日本の教育でも加害者よりも被害者としての見解を強調している。

もう1つの論点として、筆者自身の経歴、また他作品について議論した。筆者は、法律学者であり、教授でもある。今回の『朗読者』、また彼による『帰郷者』や『週末』でも、問題や悩みを解決するのに裁判など法律が使われており、考え事、物事の選択をするときにも深い思考回路があることが文中から分かる。また、どの作品も戦後の話について注目していることから、戦後の人間として、どのように戦争を受け止めたらいいのかという考えを持っていることがわかる。色んな発想、深い考えを文中で繰り広げる中で、最終的な答えを出すことはないことから、教授としての立場から、答えを相手にあげるのではなく、相手が答えを出すために質問を投げかけ、視野を広げる手助けをしていることがわかる。

 

Essay: 登場人物のそれぞれの変化・成長

ベルンハルト・シュリンクの『朗読者』には、主にミヒャエルとハンナの二人の登場人物が存在する。彼らは、作品の第一章では互いを愛し合うのだが、ハンナが行方不明になり、後の第二章ではミヒャエルが大学で学習している戦争責任の裁判にハンナが被告人として出席し、二人はまた再会する。裁判の結果、ハンナは無期懲役の罰を与えられ、長い月日を刑務所で過ごすことになる。ミヒャエルとハンナは、朗読した本のテープと手紙を送りあう関係になるものの、深く関わることはなく、ハンナが最終的に出所できるようになったが、自殺してしまう場面で作品は終わる。

第一章とその後の第二章と第三章の間には、二人の関係、またミヒャエルの心情に大きな変化が表されている。ハンナが病で苦しんでいるミヒャエルを助け、男女の関係が生まれていくシーンから作品は始まる。ミヒャエルが、勉強をしないのならもう会わないというハンナとの約束のために、必死になり勉強し、無事学校を卒業し、高校にも合格したことから、ミヒャエルはハンナのおかげで勉強を頑張れ、学問面で成長できたことが分かる。しかし、ハンナが行方不明になった後、ミヒャエルは長い間ハンナのことを思い続ける。結婚をし、子供ができたが、やはり半なのことが忘れられず、離婚したりと、他の女性をハンナを愛したほどには愛せないと思い、恋愛、また人間関係全般に距離をおくようになり、人と深く関わることを避けるようになる。ハンナがいなくなったことから、ミヒャエルの社会性が落ちてしまったこと、ミヒャエルがハンナを強く愛するほど、彼へのハンナの影響は大きく、ミヒャエルの人生においての成長や変化にはハンナが大きく関わっていることが理解できる。第三章では、朗読した本のテープを送るようになったが、ミヒャエルから感想、手紙への返信を送ることはなく、ハンナと深く関わらないようにしている。ハンナとの関係にも消極的になったことから、もう傷つきたくないという心情があるのではないかと考える。ハンナからの影響を元に、ミヒャエルが大人になるに連れて自分の感情に保守的になったと受け取れる。

一方、主人公のミヒャエルに比べ、ハンナの心情は作品中ではあまり書かれていない。彼女が読み書きできないということが分かったのは第二章の裁判の場面である。このことを隠したいプライドのため、ハンナは償わなくてよい罪まで着せられ、必要以上に長い無期懲役という刑を与えられ、長年刑務所で過ごすことになる。刑務所では、彼女は最初他の服役囚と喋っていたのだが、罪を真剣に償わないといけないという責任意識から、関係を断ち切り、孤独になり、自分を辛い環境へと追い込むようになる。ミヒャエルの変化の原因はハンナなのに対し、ハンナにとっての影響の原因は戦争であると言えると思う。彼女の人生は、戦後も戦争に振り回され、長い間責任をとるはめになってしまう。彼女は、服役中に読み書きができるようになったが、それを実生活の仕事などで活用せずに、自殺してしまう。結局、学問的には成長したものの、長い間服役していた分、仕事の発展に使う機会を失い、不利な立場のままこの世を人生を終えてしまったことが分かる。

このように、過去が人間を人生と言う長いスパンにおいて影響し、自分が他人の過去として影響を及ぼすか、人間関係と戦争がもたらす人間関係への変化が主張されている作品だと感じた。